認知行動療法について考えるときに忘れてはならないのが、デビッド・D・バーンズ。いままでたくさんの人が彼の優しい言葉に助けられたことでしょう。
デビッド・D・バーンズは、アーロン・ベック、アルバート・エリスとともに認知行動療法の基礎を築いた心理学の権威です。
認知行動療法は、その歴史や経緯から以前は医者や心理カウンセラーが論文や専門書を読み込まなければならないようなものでしたが、デビッド・D・バーンズ氏の功績によって、私たちのような一般人でも簡単に触れられるようになりました。
また、メンタルヘルス(心の健康)に問題を抱えている人のみに限らず、セルフヘルプやセルフケアという概念を一般的に広めたのは彼であると言っても過言ではないと思います。
当記事では、デビッド・D・バーンズ氏が提唱する「認知の歪み」や認知行動療法についてわかりやすくご紹介します。さまざまな考え方がありますが、選択肢が増えることは良いことだと筆者は思います。
認知行動療法とは|関連用語説明
まずは認知行動療法に関連する用語を解説します。
※当記事では、便宜上、認知療法と認知行動療法を同じ意味で扱っています。
認知行動療法とは
「認知行動療法」とは、不安や恐怖を抱えているクライアントに対して、考え方や行動などの変えやすい部分から少しずつ変えていくことで、こころのストレスを軽くしていく心理療法のことをいいます。
認知行動療法の理論では、すでに起きてしまった出来事やこれから起こる現象の捉え方やそれに対してどのように行動するかが人の気分を決定する、と考えます(これを認知モデルと呼びます)。
認知モデル:状況→自動思考→反応(感情、行動、身体)という流れがあるとするフレームワーク
つまりこのフレームワークによれば、頭にパッと浮かんでくる考え(自動思考)が非合理的に歪んでネガティブなものあれば、ネガティブな感情を引き起こす、ということになります。
認知行動療法のワークやメンタルトレーニングでは、考え方の癖や受け取り方を合理的なものに改善・矯正することで問題解決を目指します。
自動思考とは
「自動思考」とは、なにかものごとが起きたときに無意識的に頭にパッと浮かんでくる考えや思考のことをいいます。これは誰にでも生じるものです。
自動思考は、「スキーマ」と呼ばれる幼少期からの学習によって脳に形成された無意識の思考パターンが表面化したものです。
自動思考は無意識的で瞬間的なものであるため、直接的に自分の力でコントロールすることが難しく、結果的にあらわれるネガティブな感情や身体反応にしか気づけない場合が多いとされています。
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スキーマとは
「スキーマ」とは、自動思考を生み出すもとになっている考え方の癖のことです。
不安や抑うつなどストレスを感じやすい方は非合理的なスキーマを持っており、そのスキーマが認知の歪みの原因であり、結果としてネガティブな感情につながっていると考えられています。
認知行動療法と関連して議論されることの多い「スキーマ療法」という考え方では、自動思考を生む出すもとになっている考え方の癖に気づき、これを修正するように働きかけていきます。
しかし修正できなかったちょっとしたネガティブな気分を何とかしようと考え続けてしてしまうと、そのネガティブな部分が反芻されて焦点があたってしまい、さらなる自己否定につながる恐れがあると指摘されていました。
そこで近年では第三世代の認知行動療法と呼ばれるマインドフルネスという考え方が広まってきています。
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マインドフルネスとは
「マインドフルネス」とは、考え方を修正する(認知の再構成)のではなく、呼吸法や瞑想などによって、対象と距離を置いて客観視する意識の状態を作ることでストレスの緩和を目指す技法やその精神状態のことです。
マインドフルネスは、マインドフルネス瞑想や呼吸法、ボディ・スキャンなどさまざまなプログラムによって思考や感情にとらわれない精神状態になり、自分を観察することであるがままの自分を受け入れます。
また、その高い効果からビジネス界でも取り入れられており、GoogleやIBMといった世界的企業が仕事の能力開発に活用されています。
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デビッド・D・バーンズが提唱する「認知の歪み」とは?
「認知の歪み」とは、ものの捉え方や考え方が極端に偏ってしまっている状態のことで、ネガティブな感情や落ち込んだ気持ちが続いてしまう要因といわれています。
まず「認知」とは、人のものの捉え方や解釈の仕方のことです。「認知の歪み」とは、この「認知」がなんらかの理由で非合理的な考え方に偏って歪んでしまい、誇張的で現実を正確に認識することができなくなってしまう状態のことを指します。
デビッド・D・バーンズによると、「認知の歪み」は以下10パターンがあるとされております。詳しくは後述の書籍「いやな気分よ、さようなら」をご覧ください。
01 | 全か無か思考 |
---|---|
02 | 一般化のし過ぎ |
03 | 心のフィルター(部分的焦点づけ) |
04 | マイナス化思考 |
05 | 結論の飛躍(論理の飛躍) |
06 | 拡大解釈・過小解釈 |
07 | 感情的決めつけ |
08 | すべき思考 |
09 | レッテル貼り |
10 | 個人化(自己関連付け) |
認知の歪みの成り立ちについては、Wikipediaが分かりやすく整理されています。
この概念は精神科医アーロン・ベックが基礎を築き、彼の弟子のデビッド・D・バーンズ(英語版)がその研究を引き継いだ。最も有名なのはバーンズが1989年に著した『フィーリングGoodハンドブック』であり、これらの認知パターンを学び、かつ除去する方法を記している。
認知の歪み10パターンの解説
ここではデビッド・D・バーンズが提唱する「認知の歪み」10パターンについて解説します。
01.全か無か思考
ものごとを極端に、白か黒かのどちらかに完全に分けて考えようとする傾向のことで、白黒思考や二分割思考とも呼ばれます。
例えば、ある会社員が仕事のプレゼンで言い間違いをしてしまい、「もう完全にダメだ。二度と人前で話すことができない」と感じてしまう場合などです。
このような極端な考え方は非現実的であり、克服するには基準を緩める必要があります。なぜなら人生において「完全」や「絶対」ということはほとんどないからです。
完璧主義の方がこのパターンを対処するとき、自分の考え方を100%正すことを目指してしまって逆に辛くなる恐れがあります。これを回避するには認知再構成と問題解決法を学ぶことをおすすめします。
02.一般化のし過ぎ
一度起きただけの悪いことを、それが何度も繰り返し起こるように感じてしまうことです。
例えば、求職中に転職の面接に一社だけ落ちただけなのに、自分は二度と面接に合格することができないと感じてしまう場合などです。
他人から拒絶を恐れる不安の気持ち(対人恐怖)は、この一般化のし過ぎから生じるといわれています。
もし一度起きた出来事をいつまでも引きずってしまうパターンに陥っているのでしたら、ストレスへの正しい対応方法「レジリエンス」を身につけることが役に立ちます。Udemyで今なら最大90%オフキャンペーン中。
03.心のフィルター(部分的焦点づけ)
ものごとのポジティブな面が認識できなくなり、何もかもネガティブなことばかりに見えてしまうパターンです。
例えば、ずっと治安の悪いエリアで生活していると、世の中は犯罪やトラブルであふれている、と考えるようになってしまう場合などです。
落ち込んでいるときには、世の中のポジティブな面が見えなくなってしまうフィルターがかかってしまうものです。
04.マイナス化思考
何でもない普通のことや良い出来事を、悪い出来事にすり替えてしまう思考パターンです。
例えば、だれかにお世辞を言われたときに、それを素直に受け取れないばかりか、悪口を言われたように感じてしまう場合などです。
この認知の歪みの思考パターンでは、単に良いことを無視するだけではなく、正反対の悪いことに置き換えてしまうので、ものごとの良い面が見えなくなってしまいます。
マイナス化思考を克服するためには、ポジティブ心理学も有用です。自分に自信をつける方法や人生に対して前向きになりたいならこちらの動画をどうぞ。Udemyなら30日間返金保証。
05.結論の飛躍(論理の飛躍)
相手の気持ちや将来を根拠なく決めつけ、事実とは異なった悲観的な結論を一足飛びに出してしまうことです。
この思考パターンには「心の読み過ぎ(読心術)」と「先読みの誤り」の2種類があります。
- 心の読み過ぎ:他人があなたを嫌っている、と早合点する
- 先読みの誤り:事態は確実に悪化する、と決めつける
ほとんどの場合において、この認知の歪みには妄想的で強い決めつけが存在します。
また、自分で作り上げた悲観的な予言を現実のものとしてしまうため、負のスパイラルに陥る恐れがあります。
06.拡大解釈・過小解釈
ものごとの悪いところを必要以上に大げさに捉えたり、良いところは取るに足らないちっぽけなものと評価してしまう思考パターンです。
例えば、会社の異動で思いがけず新しい職場に配属されたときに、やってみないと分からない部分があるにもかかわらず自分の能力を過小評価して、不安を拡大解釈してしまって夜も眠れないような場合などです。
自分の短所を拡大解釈したり、自分の長所を縮小解釈していたら、さぞ自己評価が下がってしまうことでしょう。
07.感情的決めつけ
自分の感情をあたかも事実を証明する証拠のように考えてしまう思考パターンです。
例えば、私はなんだか罪悪感を感じる、だから何か悪いことをしたに違いない、と決めつけてしまう場合などです。
自分のマイナスの感情によって、自分を追い込んでしまうので前向きな将来が見えなくなってしまいます。
08.すべき思考
何ややるときに、理由もなく絶対にこれをすべきだ、絶対にこれをせねばならない、と頑なに決めつけてしまう思考パターンです。
例えば、「仕事も家事も100パーセント完璧にこなさなくてはならない」と考えてしまう場合などです。
この「すべき思考」という認知の歪みを他人に向けてしまうと、他人は自分の思う通りに動いてくれることはないため、かなりのストレスを感じるようになってしまうでしょう。
自分に厳しいアスリートがなぜストレスに強いかご存知でしょうか?答えは「ストレスコーピング理論」にあります。ストレスコーピングは「認知行動療法」の理論をストレスケアに転用する科学的なメソッドです。
09.レッテル貼り
間違った認知に基づいて完全にネガティブな自己イメージを作り上げてしまう思考パターンです。
例えば、道を歩いている途中でなにかにつまづいて転んでしまったときに、「私はダメ人間だ」と決めつけてしまう場合などです。
人が何をしたか、とどういう人であるかはまったくの別の話です。ネガティブなレッテルを自分に張るのはやめるべきです。
10.個人化(自己関連付け)
起きてしまった良くない出来事について、自分に責任がないような場合にも妥当な根拠もなく自分のせいにしてしまう思考パターンです。
例えば、テレビで株価が大幅に下落したニュースを見たときに、「この大暴落は私が株を買ったからだ。だから私はダメ人間だ。」と決めつけてしまう場合などです。
人が何をしたか、とどういう人であるかはまったくの別の話です。ネガティブなレッテルを自分に張るのはやめるべきです。
デビッド・D・バーンズによる認知行動療法おすすめ本
認知行動療法の権威であるデビッド・D・バーンズ定番の本をご紹介します。認知行動療法という言葉を聞いたことが無い人にとっても、いい気分で人生を送りたいと思う人にとっては役に立つヒントが満載の本ばかりです。
もし本を読むのにも苦労されているのでしたら、関連動画を見ることをおすすめします。スマホでお手軽に流し見できますし、何度も繰り返し見れば認知行動療法の考え方が定着するでしょう。
いやな気分よ、さようなら
認知療法を世に広めた名著[いやな気分よさようなら]。読めば”うつ病のバイブル”と呼ばれるその理由が分かります。
前半と後半に分かれており、前半は認知療法について、後半は薬物治療についての内容になっています。前半を読むだけでもその威力は十分。“自動思考”や”認知の歪み”などのキーワードの解説はもちろん、抑うつを改善し気分をコントロールするための認知療法を紹介しています。
内容にボリュームがありページをめくるのにも時間がかかるかもしれませんが、少しずつでも読める内容だからこそデビッド・D・バーンズの優しい言葉は心に響くのでしょう。
フィーリングGoodハンドブック
[いやな気分よ、さようなら]に続く認知療法本の第2弾。前作を基本としつつも、より具体的で実践的な内容になってパワーアップした内容になっています。
憂うつだけではなく、不安、緊張、恐怖、コミュニケーションなどにも対象を広げた本書は、気分よく日々を過ごしたいと思っているすべての人にうってつけ。
人に優しい人ほど自分に優しくなれる。読めば読むほど、そう思わさせてくれる1作です。
もういちど自分らしさに出会うための10日間
理論や概念の説明よりも認知療法のセルフヘルプに特化した認知療法本。
読者が認知行動療法の基本原則に則って10日間の日常練習を行うことで、自分自身の考え方の歪みに気づき、それが修正され、心の様々な問題が解決されるようにデザインされている本書。
自分と向き合いながらも本のとおりにセルフヘルプ実習を進めていけば、少しずつ気持ちが変化していくことに気づくでしょう。
まとめ
憂うつな気分のときには、無気力でなにもしたくなくなるものです。
しかし、それは決してあなたが悪いという意味ではありません。その状態こそまさしく認知の歪みの「感情的決めつけ」といえます。そしてこのような「認知の歪み」と呼ばれる思考パターンに気づくことは、物事の良い面を見つめ直すよいきっかけになります。
認知行動療法のワークに取り組めば、憂うつな気分を解消できます。極端な決めつけを緩めたり思い込みを解消して認知の歪みを治していけば、肩の力を抜いて楽に生きることができます。これは明るい人生を生きていくためにはきっと役立つことでしょう。
最後に著者の好きな一節をご紹介します。
たとえ暗く長い道のりが続いていたとしても、かならず光が見えてきます。止まない雨はないし、抜けないトンネルもありません。自分を大切に愛してあげましょう。これからはきっとうまくいきます。